爆発と沈潜。明と暗。際立つ見事なコントラスト!
2013年5月19日(日)熊本・22日(水)福岡
「ニコライ・トカレフ ピアノ・リサイタル2013」



真嶋雄大(音楽評論家)


4年ぶりの来日である。思い起こせば初来日は1997年、まだ13歳の少年だった。その愛くるしい笑顔と容姿、それに相反するような堂々たるピアニズム、日本の聴衆は一気にトカレフの虜になった。  トカレフが学んだのはグネーシン音楽学校校長のミハイル・ホフロフ。また名教師ゲンリヒ・ネイガウスの弟子で、ブーニンも育てたエレーナ・リヒテルの薫陶も受けた。そこでトカレフは、徹底的に美しい音を創るトレーニングを受け、揺蕩うような色彩感の変化や独特のロマンティックな情感表現を身に着けた。そして日本にデビューしてからは、毎年のように来訪してその類稀な演奏でファンを魅了したのである。

トカレフのピアニズムは鮮やかだ。盤石で揺るぎないテクニック、全体を俯瞰しながらの、確固たる造形と雄渾なダイナミズムはそのままに、爆発と沈潜、明と暗など際立ったコントラストを見事に制御し、みずみずしい息吹とともに移ろうような情景と匂い立つような香りを湧き起こらせて比類がない。以前は確かに勢いや駆動力で疾走していた場面もあったが、年齢を重ねるにつれてその扱いが実に巧みになった。  それは2005来日時のバッハ=ブゾーニやショパン、2006年のブラームスやチャイコフスキー、2007年の日本デビュー10周年記念ツアー、そして2008年オラリー・エルツ指揮ルツェルン響との共演など、人間の内省にまで踏み込んだ深々としたとした境地が、聴くものの心にストレートに迫ってくるのである。  そしてトカレフは2013年に30歳を迎える。今回のプログラムはモーツァルトやベートーヴェン、ショパンに加えてパプストやローゼンブラットの超絶技巧作品も並んでいる。 若き精悍なヴィルトゥオーゾの、圧倒的な名演を期待したい。

《公演詳細》